大切な人を亡くされたあなたは、もしかして
「もう、そろそろ立ち直っても良い頃じゃない?」
こんな励ましの言葉に、胸が苦しくなった経験があるのではないでしょうか?
相手に悪意はない——それは分かっている。
でも、忘れられるわけがない——。
大切な人を忘れてしまうことが——すごく怖い。
でも、時間も経ったし、そろそろ忘れなければいけないのかなぁ…。
大切な人を亡くし、誰かの何気ない一言に戸惑ったり、心の置き場所を見失ったりする人は少なくありません。
今回は、『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴/集英社)に登場する竈門炭治郎の言葉を通して、「悲しみ」と「優しさ」について考えてみます。
悲しみを抱えたままでも、前に進むことはできるのか。
炭治郎の言葉が、あなたの心をそっと支える一節になるかもしれません。

【この記事を書いた人】
・看護師(臨床経験10年以上)/家族ケア専門士として活動
・国立大学非常勤講師(高齢者看護学実習指導教員)
・グリーフケア専門士取得
・カウンセラー
・集中治療室・救急外来から在宅医療・介護施設まで幅広い現場を経験。
・韮崎市からの依頼を受け、年間60件以上の介護認定調査を実施。
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『鬼滅の刃』に描かれた“喪失の痛み”
なんで助けてくれなかったの?
吾峠呼世晴『鬼滅の刃』集英社
自分だけ生き残って…
何のためにお前がいるんだ、役立たず
『鬼滅の刃』の物語の中で、竈門炭治郎は家族を鬼に殺されるという、あまりにも大きな喪失を経験します。
上記のセリフは、敵の能力によって炭治郎が“夢”の中で見た場面。
そこでは、亡くなったはずの家族が炭治郎に向かって、責めるような言葉を投げかけます。
でも、炭治郎の家族がそんなことを言うはずがないんです。
この声は、敵の能力による攻撃によって炭治郎に聞かせたものではありますが
実はこの声は——、
炭治郎自身がずっと背負い続けてきた心の声なんだと私は思っています。
「自分だけが生き残った」
「助けてあげられなかった」
そんな思いが、彼の中にはずっと残っていた。
だからこそ、夢の中で“家族の姿を借りた自分”が、自分自身を責め続けていたのだと思います。
大切な人を失ったあと、「もしあの時こうしていたら」「自分のせいかもしれない」と考えてしまうのは、とても自然なことです。
誰かを愛していたからこそ、守れなかった自分を責めてしまう。
この炭治郎の苦しみは、喪失を経験した誰もが心の奥に抱えている痛みなんです。
「どうか許してくれ」——竈門炭治郎の言葉が示す“愛のかたち”
いつだって兄ちゃんは、お前のことを思っているから。
吾峠呼世晴『鬼滅の刃』集英社
みんなのことを思っているから。
たくさんありがとうと思うよ。
忘れることなんてない。どんな時も心はそばにいる。
だから……どうか許してくれ。
さきほどの家族からの責める言葉に対して、炭治郎が家族に向けて語りかけた言葉です。
そこには「悲しみ」「後悔」「寂しさ」「愛」——さまざまな感情が入り混じっています。
けれどこの一節の中で、私が特に心を打たれたのは、「忘れない」という言葉が、悲しみではなく“愛”として描かれていることです。
炭治郎は「悲しみを手放そう」とはしませんでした。
ここで、家族への自分の気持ちと向き合ったことで、悲しみを抱えたまま、「ありがとう」と言えるようになったんです。
それは、苦しみの中で罪悪感に飲み込まれそうになっていた家族への愛を、もう一度「愛し直した」瞬間のように感じます。
私は、この炭治郎の「どうか許してくれ」という言葉には、自分を責めてきた時間を終わらせたいという願いだけではないように感じるんです。
この言葉の奥には、助けられなかった家族へ謝罪だけではなく、「自分と妹の禰豆子と二人で、家族の分まで生きていく。今までの弱い自分を“どうか許してくれ”」という、家族への深い感謝の気持ちが共に込められていると私は考えています。
人は、悲しみを“乗り越える”わけではなく——、
悲しみの中で「愛を見つけ直す」ことで、少しずつ前向きに進んでいけるようになるのだと思います。
悲しみの中にいることは、決して前に進んでいないわけではありません。
悲しみの渦の中にいると、進めていないと感じるかもしれませんが、前には進んでいます。
そして、いずれ「悲しみの中で愛を見つけ直す」ことができる日が来るんです。
今は苦しいかもしれません。
でも——、
その苦しさは、あなたがたくさんの愛を受け取っていた証拠です。
その苦しさは、あなたがたくさんの愛を持っている証拠です。
その苦しみを嫌わないでください。
その苦しみをダメなことと思わないでください。
炭治郎の言葉は、このことを静かに教えてくれているんだと私は思うんです。
「忘れないこと」は、悲しみを閉じ込めることではなく、
“その人を想いながら生きていく”という「優しさの形」なんです。
「グリーフ」という言葉で見えてくるもの
ここまで読んできて、炭治郎の心の揺れに「わかる気がする」と感じた方もいるかもしれません。
大切な人を失ったとき、誰もがこのような「心の波」を経験します。
心理学の世界では、このような大切な存在との別れに伴う心の反応を「グリーフ(Grief)」と呼びます。
日本語では「悲嘆」と訳されます。
これは単なる“悲しみ”ではなく、喪失をきっかけに心や体が揺れる状態を指します。
- 涙が出る
- 眠れなくなる
- 誰かを責めたくなる
- 思い出して苦しくなる
どれも間違いではなく、どれも“自然な反応”です。
そして、反対にこれを“全く感じなくなる”というのも異常ではなく自然な反応です。
どちらが正しい反応で、どちらが本当に大切にしている人の反応というものではありません。
どちらも自然な反応で、どちらも大切な人だからこその反応なんです。
悲しみを感じていても、感じられなくても、どちらも「つらい気持ちから自分を守るための防衛本能」です。
防衛本能が機能するくらいあなたは大切な人をちゃんと大切にできていたということです。
グリーフという言葉を知ると、「自分が弱いから苦しいのではない」と気づける人が増えます。
そして、自分の中にある悲しみを“名前のあるもの”として理解できることで、少しずつその痛みを抱えながら生きる力が生まれていくのです。
悲しみとともに生きる——“忘れない”という優しさ
炭治郎の「忘れることなんてない。どんな時も心はそばにいる」という言葉。
これはまさに、「悲しみを手放さないまま生きる」ことの象徴です。
人は、大切な人を失っても、その人を完全に失うわけではありません。
記憶や言葉、想いの中に、確かにその人は生き続けています。
いろんな人がいます。
いろんな人があなたに、いろんな言葉を掛けるでしょう。
でも、それに惑わされる必要はありません。
「早く忘れなきゃ」「立ち直らなきゃ」と焦る必要もありません。
悲しみは、時間が経てば薄れるものではなく、形を変えて寄り添ってくれるものです。
そして、その変化の中で、悲しみは“優しさ”へと姿を変えます。
自分が味わった痛みを知っている人ほど、他者に寄り添えるようになる。
炭治郎のように、誰かを思いやる強さを持てるようになるのです。
悲しみとともに生きるとは、「忘れないままでいい」と自分に許可を出すことです。
それが、悲しみを超えた“優しさのかたち”なのだと思います。
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実は、そんな私たちは、常に「グリーフケア」が必要な状態にあるのかもしれません。
「泣く」という行為は、自分にとっても・誰かにとっても「1つのケア」になると私は考えています。
おわりに——言葉の力が、心を支える
人は誰かの言葉に救われ、また誰かの言葉で傷つくこともあります。
けれど、炭治郎の言葉が教えてくれるのは、「優しい言葉は、時間を超えて心に残る」ということ。
たとえ悲しみの中にいても、誰かの「ありがとう」「大丈夫」「そばにいるよ」という言葉が、心を少しずつ温めてくれることがあります。
『鬼滅の刃』の世界に込められたこの優しさは、現実を生きる私たちにも、静かに寄り添ってくれるものです。
大切な人を思い出すとき、涙がこぼれる——。
何年も前のことなのに、まだ胸が苦しくなる——。
そんな感情の揺れを今も持ち続けていていいんです。
それは、今も——、
その人を愛している証拠だから。
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このブログは、看護師(臨床経験10年以上)、家族ケア専門士が書いています
集中治療室・救急外来・内科・外科・整形外科・訪問看護・特別養護老人ホーム・デイサービスなど、幅広い医療・介護現場を経験
介護認定の認定調査員として、韮崎市からの依頼を受け、年間60件以上の要介護認定調査を行い、介護制度と在宅介護の現場にも精通
国立大学非常勤講師(高齢者看護学実習指導教員)
心理学・カウンセリングを15年以上学び、現在はカウンセラーとしても活動
【資格・実績】
・ 看護師
・家族ケア専門士
・DMAT隊員
・グリーフケア専門士
・認定調査員(年60件訪問)
・ハンドケアセラピスト
・アロマテラピー検定1級
・ヒューマンギルドにてアドラー心理学・カウンセラー養成講座修了
・ユマニチュード基礎講座修了
「医学的知識 × 心理学的支援 × リラクゼーション」を組み合わせて
介護をするご家族の身体と心を支えるための活動をしています。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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