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「患者や家族の前で泣いてはいけない」
「泣くのはプロ失格」
こんなことを言われたことがある看護師も、多いのではないでしょうか?
僕も新人の頃、「家族や患者の前では、泣いてはいけない」と教育されてきました。
しかし、実際に病棟で働く中で、泣きそうになること、涙がこぼれてしまうことが何度かありました。
それを見た家族から、「ありがとう」と優しく言われた経験もあります。
「泣くな」と教育されてきたのに「ありがとう」と言われる。
これは、どういうことなのでしょうか?
僕は
- 「その涙が自分のための涙ではない」
- 「他の患者の前では泣かない」
これらの条件が揃っている場合、「泣く」という行為は、ケアになると考えています。
今回は、看護師にとって「泣く」ということについて、解説していきます。
- 泣いてはいけないと思っている(そう教育された)
- 泣いてしまったことを後悔している
- 泣き虫で、患者や家族の前で泣いてしまうのではないか不安
そんな人に読んでもらえて、参考にしてもらえたらと思います。
1.なぜ看護師は泣いてはいけないと教育されるのか
冒頭でも書きましたが、「家族より、先に泣いてはいけない」と言われ、育ってきた看護師は多いでしょう。
そもそも、なぜ看護師は「泣いてはいけない」と教育されるのでしょうか?
「患者が亡くなってしまったとき」「家族や本人に告知したとき」、感情は動いてしまうのは仕方がないことです。
しかし、そのときに看護師が泣くと
なんで私の(家族の)ことなのに、あなたが泣くの!?
私の気持ちの、何が分かるの!?
あなたには関係ない!
と、患者・患者家族に思わせてしまう可能性があるからです。
実際に泣いてしまった後に、これに近いことを患者や患者家族から、言われたことがある医療者もいると思います。
このように、他人である医療者が、本人や家族と同じような感情を抱いていることに、疑問や不快感をおぼえる可能性があるから、「泣いてはいけない」と教育されるというわけです。
まるで分かったような振る舞いをされると
分かるわけがないっ!!
と、イラつく気持ちがあって当然だと思います。
このときの患者・患者家族の心理としては、「置いてきぼり」という表現が、一番近いのではないでしょうか?
当事者の気持ちを置き去りにして、自分の気持ちにフォーカスしてしまった結果
- 「なんで私の(家族の)ことなのに、あなたが泣くの?」
- 「私の気持ちの何が分かるの?」
- 「あなたには関係ない」
と思わせてしまうんです。
2.泣くことで家族からありがとうと言われた理由
泣くことで、患者・患者家族に疑問や、不快感を与える可能性があると前述しました。
しかし、反対に泣くことで「ありがとう」と、感謝された経験がある医療者もいるのではないでしょうか?
僕も、泣きそうになっているに、ご家族から「ありがとうございます。」と声を掛けられたことはあり、友人もそういった経験が、何度もあると話していました。
このときのご家族は
- 「自分の大切な家族を、大切にしてくれてありがとうございます。」
- 「そんなふうに言ってもらえたの初めてです。」
このような想いをもってくれています。
これは、「想像」ではなく、僕と友人が実際に直接掛けられた言葉です。
同じ「泣く」という行為であっても、感謝されることもある。
そこに、患者や家族からの感謝があるならば、それは1つのケアだと僕は思います。
しかし、感謝される側のことは無視され、不快にするリスクにだけ注目して、「泣いてはいけない」と、新人の頃から言われ続け、意識に刷り込まれてしまう。
看護師が泣いてはいけないと言われる原因には、この「新人の頃からの刷り込み」が原因の1つに挙げられると考えられます。
3.看護師が泣くことの意味 ―泣くことがケアになる―
泣いて感謝される場合と、泣いて不快に思わせる場合と、その違いはどこにあるのでしょうか?
ないて感謝される場合と、泣いて不快にさせる場合の違いを理解するために、まずは「看護師が泣くことの意味」について考えていきたいと思います。
看護師が泣くこと、「ケアになる涙」には、以下の3つがあると僕は考えています。
- 家族が看れなかった時間を、代わり大切にしていたことを伝える涙
- 共感の涙
- 泣くことが出来ない人の代わりの涙
それぞれ解説していきましょう。
①泣くことで家族が看れなかった時間を、代わり大切にしていたことが伝わる
1つ前の章で紹介したように、ご家族から泣くことで感謝されたときに言われたのは
私の大切な家族を、大切にしてくれて…ありがとうございます。
というものでした。
この言葉の中には
- 自分たちが看れなかった代わりに看てくれていたこと
- 泣くほどの想いを持ちながら、自分の大切な人を、自分たちの代わりに大切にしてくれていたこと
この2つの想いが込められています。
入院中、一番長い時間、患者に関わることができるのは看護師です。
「医師がいてこその治療」ではありますが、それをベッドサイドで一番長い時間看続けるのは看護師です。
一番長い時間関わっていた看護師が、泣くほどの想いを持って看護していた。
その事実は、家族の後悔を減らすことができる1つのケアになり得るんです。
後悔がない介護や、後悔がない看護はないかもしれません。
大切であればあるほど、「もっと、あんなことができたんじゃないか」「あれをしてあげれば良かった」とい後悔が生まれます。
後悔は、悪いものではありません。
しかし、悪いものではなくとも、つらく耐えがたい想いではあります。
※大切な人を亡くした時の「後悔」についてもっと知りたいという方は、こちらの記事も併せて読んでみてください
その後悔が、僕たち医療者が涙を流すことで少しでも軽くして挙げられることができるなら、泣いても良いのではないでしょうか。
②共感の涙
「共感」は、多くの場面で使われる言葉です。
相手の立場に立ち、相手になったつもりで、見て・聞いて・感じること。
これが「共感」です。
患者の・患者家族の立場に立ち、その気持ちを想像し、「こういう想いをしているんだろう」と、まるで自分のことのように感じる。
こういった「共感」のもとに流した涙であれば、「ありがとう」と言われる涙なのではないでしょうか?
そこに「共感」があって泣くのであれば、その共感は相手には伝わり、不快な思いをさせることはないでしょう。
③泣くことができない人の代わりの涙
あまりにショックなとき、泣くことすらできなかった経験が、みなさんにもあるのではないでしょうか?
受け入れることができない出来事を前に、人は思考を止めます。
その出来事を、自分の中で昇華できるようになるまで、涙すら流すことができないことがあります。
涙は、起こった事実を「事実」として認めることができて、初めて流れるものです。
つまり、起こった事実を受け入れることができない状態では、泣くことができないことがあるんです。
また、中には、本人や家族が「泣いてはいけない」と思っている場合もあります。
- 気を強く持ち、自分に制限をかけている
- 自分に「泣いてはいけない」というルールを課している
そんな人もいます。
看護師が泣くことで、「今は泣いても良い瞬間なんだ」と、気づいてもらうことができます。
人が泣いているところを見て、ハッと我に返る。
人が泣いているのを見て、自分も自然と涙が出てきた。
そういった経験も、過去に実際ありました。
泣いている姿を見せることで、自分の感情に蓋をしているっことに気づくきっかけになることもあるんです。
そう考えると、「泣くこと」が一概に悪いことではないと感じてくるのではないでしょうか。
4.泣いてはいけない4つのパターン
ここまで「泣いても感謝される場合」を解説してきました。
ここからは、反対に「泣いてはいけない場合」の特徴を紹介します。
「泣いてはいけない場合」には
- 家族と本人の気持ちを置いてきぼりにしている(自分が主人公・ヒロインになっている)
- 泣くことに集中してしまっている
- 気持ちを押し付けている・思い込んでいる
- 同じ目線で立てていない、同情している
以上の4つのパターンが存在します。
※ここでは、患者が亡くなった場合や告知されたときなどを想定しているため、先輩や上司に怒られた・ミスをしたことを理由に泣いてしまうという「泣いてはいけない場合」のパターンではありません。
もし、このパターンに当てはまってしまった場合、前の章で紹介した、①「家族が看れなかった時間を、代わり大切にしていたことを伝える涙」、②「共感の涙」、③「泣くことが出来ない人の代わりの涙」ができていたとしても、相手にとって不快に感じる涙になってしまうので、気をつけましょう。
「泣いてしまうことが悪い」とは僕は思いません
しかし、その涙がどういったものであったのか、振り返る必要はあります。
ここの4パターンは、その自分の振り返りに使っていただけたらと思います。
①家族や患者本人の気持ちを置いてきぼりにしている(自分が主人公・ヒロインになっている)
病院での主役は「患者」・「家族」であり、自分ではありません。
泣くという行為や、泣いている自分に意識が向いてしまい、患者・家族に意識が向いていない。
こういった場合は、「泣いてはいけないパターン」だと思ってください。
例えば、入院期間が長く、亡くなった患者に対して思い入れが強い場合、気持ちの揺れは大きくなり、泣いてしまうことがあるでしょう。
しかし、「○○さんっ!!」と、誰よりも先に手を握り、看護師が泣き始めたらどうでしょう?
きっと、自分が家族であれば、その光景に戸惑うのではないでしょうか。
- 本人が、誰と一番お別れをしたいのか
- 自分以上に悲しい想いをしている、お別れをしたい家族がいる
こういったことを忘れている場合、不快な思いをさせてしまうのは当然かと思います。
上の例は、極端な話であるため
いや、そんなことありえないでしょ!
と、思われるかもしれません。
しかし、自分を振り返った時に
- ご本人やご家族の「想い」を想像できているか?
- 想像して行動できているか?
こういった自分への問いかけや、自分への視点が必要です。
逆に言えば、この視点があれば、仮に泣いたとしても「感謝」をされるケアになるということです。
②気持ちが引きずられて切り替えができない
看護師の仕事は、マルチタスクだといわれています。
多くの患者を受け持ちながら、多くの業務・作業を同時進行で行わなければなりません。
つまり、泣くような場面があったとしても、次の患者のベッドサイドに行ったときには笑顔になっていなければなりません。
笑顔になっていなければいけないというと、少し語弊があるかもしれませんね。
少なくとも、気持ちと表情を切り替えて、他の患者や家族に不安を与えないようにしなければならないということです。
別の患者・家族の前でも泣いているようなときは、意識が自分に向いている可能性があるので注意してください。
また、話は少し「泣く」から逸れてしまいますが、告知の後や患者が亡くなった後の、本人と家族の心は、とても繊細になっています。
ナースステーションで看護師が笑っているところを見ても、傷ついてしまうことがあります。
笑ってはいけないわけではありませんが、自分たちの行動がみられていること、自分たちの些細な行動が傷つけてしまう可能性があるととも気を付けなければなりません。
気持ちを引きずらずに、切り替えが上手すぎるというのも、気を付けなければならないということです。
患者や家族が、「今、感じている気持ちに集中できる環境作り」も大切にしていきましょう。
③気持ちを押し付けている・思い込んでいる
おつらいですね…
つらい経験にあった相手に対して、共感をするときには「おつらいですね」と声を掛けましょう…。
看護学生のときに、そう教えられました。
僕は、社会人になり、心理学を勉強してから看護学校に入ったので、この「おつらいですね」に、違和感を覚えました。
※「おつらいですね」が共感にならない理由については、後日 別の記事で詳しく解説したいと思っています。
「つらいかどうか」を決めることができるのは「本人」だけです。
なので、周りの人間が、本人が言ってもいない感情を勝手に押し付けてはいけないのです。
「○○かもしれない」と、相手の状況を想像して、そこに共感をして泣くことはケアになりえます。
しかし、「○○であるはず」「絶対○○だ」というように、相手の気持ちを決めつけて、泣いてしまうと、①の「置いてきぼり」の状態と同じになってしまうため、気を付けなければなりません。
④同じ目線で立てていない・同情している
「共感」とは、同じ目線に立っている状態でしか成り立ちません。
そのため、自分は安全地帯にいて、上から目線で同情するような「可哀想」という思いから泣く場合、相手は不快感を抱きやすくなります。
自分では、上から目線のつもりはなくても、「可哀想」という同情には、「私は違いますけどね」という意味を含んでしまう場合があります。
そうすると、同じ目線で立てていない=どうやっても共感できないということになります。
自分の涙が同情からきてはいないか、自分を振り返ることで、無駄に相手を傷つけることはなくなります。
5.まとめ
泣くという行為が、悪いというわけではありません。
しかし、看護師の教育の中では、「泣くことが悪いこと」ということだけが、先行してしまっているように思います。
「泣くことの意味」、「泣くことで伝わるもの」を考えていく必要はあります。
しかし、泣くこと自体を「短絡的に良くないこと」と言ってしまったら、僕らが泣いたことによって救われた家族はなんだったんだろう…と思うんです。
たしかに、結果的にケアになったものかもしれません。
意図的にケアにしようと思って、泣いたわけではありません。
しかし、泣くという行為の先に、救われる人たちがいたのも事実です。
泣くことで救われた人たちのことを忘れず、相手に共感して、一緒に泣いてあげられる看護師がいてもいいのではないでしょうか?
…と、僕はそう思います。
自分が泣いてしまったとき、この記事の中の何かを思い出し、自分を肯定してもらえたら、次の経験に活かしてくれたら幸いです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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